チャイコフスキーの交響曲全6曲中からベスト5です。マンフレッド交響曲は考慮しないことにしました。
これだけ現在では人気のある作曲家ながら、生前の彼の曲への評価は必ずしも良くなく、ピアノ協奏曲第1番、ヴァイオリン協奏曲、バレエ『白鳥の湖』、そして交響曲第6番でさえ、不評だったことは意外です。
チャイコフスキーの交響曲の特徴は、第3番「ポーランド」以外は短調であるということによる劇場性、リズム設計の緻密さ、華麗なオーケストレーションなど現れており、特に第4番以降の後半の3曲は傑作とされています。ただ、それとランキングは話が別。意外に思われる方も多いかもしれません。
チャイコフスキーの交響曲ランキング
以下、ランキング順に各曲の簡単な説明とおすすめCDのご紹介をしていきます。
第6番 ロ短調 「悲愴」
チャイコフスキーの最後の交響曲。「悲愴」といえば、この曲とベートーヴェンのピアノソナタ第8番が有名。チャイコフスキー自身が命名したものです。
53歳で作曲。うつ病で悩まされた晩年期だったこともあっていろいろ憶測を呼びました。初演後9日後に急死しましたが、これは病死でした。しかしこの曲の、特に終楽章の終末感は痛ましいものがあり、彼の無意識な死の予感の表現であったのかもしれません。もちろん誰もが認める傑作ですがのめり込みすぎると怖い曲。落ち込んでいる時には聴かないほうがいいでしょう。
第1楽章は、まったく気が滅入るような序奏で始まります。ファゴットでつぶやく「ラ・シ・ド・シ(固定ドでの表現)」モチーフが全曲を支配します。主部に入ると弦楽器で力なく先のモチーフからなる第1テーマが奏されます。盛り上がって沈静するとゆったりとした第2テーマが美しくも哀しく奏されます。彼らしい壮大なイメージ。それが最弱音でおさまると、激情的な展開部に入って第1テーマが徹底的に展開されます。楽章の終りの闘いが終わったような諦観。長調で静かに終ります。
第2楽章は、4分の5拍子(2拍子+3拍子 型)という珍しい拍子のワルツ的な楽章。主部はニ長調で優美なものですが、中間部のロ短調の哀しみを引きずるようなテーマが印象的。最後は中間部のテーマを名残惜しそうに呟きながら終わっていきます。
第3楽章は、スケルツォ的な要素と行進曲の要素をあわせ持ったこの曲では一番盛り上がりをみせますが、「まるでイヤイヤ戦争に駆り立てられる兵士のようだ」とも表現されました。急速な8分音符でせわしない部分と、付点音符のモチーフによる行進曲部分が相互に現れながら高調し、頂点に達すると音階を急降下して終止します。
第4楽章は、通常の交響曲とは異なり緩徐楽章で、まさに「悲愴」そのもの。基本的にはソナタ形式で、哭泣するような第1テーマは一音ごとに弦楽器が代わる代わる演奏するのですが、それがまたすすり泣くような音になっています。やはり下降音型である第2テーマは提示部ではニ長調でちょっとした救いはありますが、これが再現部ではロ短調で寂しく登場します。楽章全体が悲涙と慟哭で覆われたこの曲。最後の低いロ音の保続音はもう救いようのない絶望しか感じられません・・・
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第4番 ヘ短調
もし「悲愴」がなければ、チャイコフスキーの交響曲の頂点といってもいい作品。
フォン・メック夫人(未亡人)が彼のパトロンとなっていたのは有名ですが、その援助によって作曲に専念できるようになったことが曲の充実につながったのでしょう。
運命的な冒頭からは悲壮的な感じを受けますが、それが終盤にいくにつれて悲しみがほぐれてフィナーレは喜びの爆発となって華麗に終わるので、聴いた後の爽快感も随一です。メランコリックな旋律が多いことも魅力。
第1楽章の序奏は金管楽器による印象的なファンファーレ風のモチーフで始まります。短調なのでおどろおどろしい。主部は8分の9拍子。メランコリックそのものの第1テーマ。それが盛り上がりをみせておさまると、クラリネットで付点リズムでちょっと哀しいような可笑しいような滑稽味のある第2テーマを奏します。楽章の要所要所で序奏のファンファーレモチーフが登場して「執拗な運命」を感じさせます。最後は追い立てられるような終結部で全楽器のへ音に終止します。
第2楽章は、孤独な一人の人間の淋しさを音楽化したような曲。変ロ短調のオーボエでのテーマが印象的。中間部はヘ長調で明るさをみせますが、やがて先のテーマが戻って終ります。
第3楽章は、ピチカートが特徴的なスケルツォ。中間部の木管楽器が刹那的な楽しさを演出しますが、それでも全体的に夢幻的で現実味がなく、現実的な回答は終楽章に託されます。
第4楽章は、ヘ長調の勝利の凱歌。最初の賑やかな第1テーマは、効果的な休符を挟みながら高調していきます。跳び跳ねるような副主題も相まって発展してそれが一段落すると、変ロ短調で民謡的な第2テーマとなります。これらの材料を元に曲は進行し、最後はオーケストラ全体が歓喜の渦になって我々を巻き込んでいき、全肯定的なクライマックスで曲を閉じます。
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第1番 ト短調 「冬の日の幻想」
チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」です。第5番をしのいでのベスト3入り。この曲は、チャイコフスキーが26歳の時に書かれた、もちろん彼最初の交響曲。彼自身がタイトルをつけたのは、この曲と第6番「悲愴」くらいなので、思い入れもずいぶんあったのでしょう。ところが、初めは周りに酷評されてずいぶんと落ち込んだようです。2回も見直して、現在演奏されるのは第3稿だとか。
交響曲の完成度からいえば、第4番から第6番の3曲にはかなわないところですが、管理人がこの曲を推すのは、なんとも題名の通り憂愁でいかにもロシアの冬の風景が浮かんでくるような曲調のせいでしょうか。第1楽章で弦のトレモロの中で奏でられる第1テーマから冬の雰囲気そのまま。もちろん彼らしい華麗なオーケストレーションはこの頃から健在であります。
第2楽章と第4楽章が特にオススメです。第2楽章は美しくも哀しげなゆったりとした歌謡調のメロディーが絶品。第4楽章は、いかにもロシア民謡的な旋律の序奏と、弾けるようなアレグロとの対比が見事。そしてたたみかけるように盛り上げていくコーダにシビレてしまいます(しつっこさも含めて)。
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第5番 ホ短調
この交響曲がなぜこの位置なのか、ということが問題でしょう。この曲はチャイコフスキーがそろそろ才能の枯渇を感じ始めた頃に作曲され、本人も「こしらえたようなわざとらしさがある」と言っていたそうです。しかし曲の人気は演奏するごとに高くなり人気曲になりました。
ただ彼が最初に感じたことは当たっているとも思えるのです。この曲は「どこかしっくりこない」のです。楽想はさすがに美しいものがあるのですが、音楽の流れがあまり長続きしないで、とってつけた感が否めない。技巧では申し分ないのだけれど気持ちが入っていないような・・・。そんなこんなで順位が下がってしまいました。
第1楽章は、序奏付きのソナタ形式。クラリネットの低音で曲全体のメインモチーフが奏されます。これは第4楽章でも重要に扱われます。主部に入ると付点リズムの特徴的な第1テーマがクラリネットとファゴットで登場します。ひとしきり盛り上がると弦楽器による糸が引くようなモチーフを皮切りに場面転換となりバネにような動機の導入があってから柔らかい第2テーマとなります。この辺が妙に変わり身が速い気がするのです。コーダは第1テーマによりたたみかけるように高調した後次第に低音に移っていき低音中心の最弱音で終ります。
第2楽章は、ホルンの満ち足りたようなニ長調の第1主題と、オーボエで現れる嬰ヘ長調の息の長い第2主題、そして中間部のロシア的な管楽器節の第3テーマが中心になっています。中間部の終わりには先のメインモチーフが顔を出します。
第3楽章は、ワルツ。流麗なテーマによる主部とちょこまかと動く中間部テーマを中心に進行します。終わり近くにメインモチーフが、もそっと現れてそれを打ち消すように強打音で終ります。
第4楽章は、メインモチーフがホ長調で重厚に演奏される序奏で始まります。このまま円満に行くのかとおもいきや、主部はホ短調で刻むリズムの第1テーマでせかせかと始まります。とび跳ねるようなパッセージの後で、長い音で始まる第2テーマがリズミカルな伴奏に乗って登場します。展開部、再現部を経てメインモチーフが点滅的に現れて属和音で止まった後で、メインモチーフが堂々とホ長調で滔々と流れるコーダに入ります。最後は第1楽章の第1テーマまでも長調で華やかに登場してそのまま最終音に至ります。
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第2番 ハ短調 「小ロシア」
曲の中でウクライナの民謡を使っていることでこのニックネームが付いています。「小ロシア」とはウクライナ周辺を指す言葉ですが、どうやら言われる側としては面白くない言葉らしいですが。
初演から評価が良かったのも宜なるかなで、民謡使用による人懐こさや適度に飽きさせない楽章バランスがいい楽曲だと思います。特に第1楽章序奏でのホルンによる旋律は聴くものを引き込む力があります。短調ではありますが物悲しさよりも力強さがより感じられ、特に第4楽章は元気づけられるところ大です。
第1楽章は、属和音の強打から引き伸ばされた属音からホルンが民謡的なフレーズを吹く序奏から始まります。これが全曲を支配する主要モチーフ。主部はリズム的な面が目立つ切れの良い第1テーマと、夢見るように上昇する優しい第2テーマが主材料になります。先の主要モチーフは展開部でも存分に活用されます。再現部では第1テーマが圧倒的な形で登場します。コーダは再び主要モチーフにより静かに終ります。
第2楽章は、ゆっくりとした行進曲調の曲。クラリネットで提示される第1テーマと、なだらかな民謡風の第2テーマを元に進行します。第3楽章はチャイコフスキーのオーケストレーションとリズムの面白さがあふれているスケルツォです。中間部のピコピコしたテーマが愛らしい。
第4楽章は、この交響曲の白眉。堂々としたファンファーレ的な序奏は既に第1テーマを準備しています。弱音から走り出す主部の第1テーマは変奏されながら発展していく面白い展開を見せます。第2主題はヘ短調で抒情的なもの。この2つの主題が展開部ではどちらも活用されます。再現部ではまたもや第1テーマの変奏がますます派手になっていき、最後は全オーケストラによる急速で賑やかなコーダで興奮の内に曲を閉じます。
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ランキングから外れたのは、第3番「ポーランド」だけですが、ハッキリ申し上げて、この曲は全体的な旋律や楽想の魅力に乏しく、よほどのチャイコフスキーファンでなければオススメしません。