ブルックナーの交響曲全9曲*の順位付けというのをやってみたいと思います。全9曲中ベスト5を選びました。
ブルックナーの交響曲には、●●版というものが多種あり、かなり混乱させられることがあります。ここではできる限り原典版で統一したいのですが、時には他の版を指していることがあるかもしれません。いずれにしても、事態は混乱を極めており、私自身としてこれまで一番多く聴いたもので判断せざるを得ません。
(*ここでは0番などのブルックナー自身が認めた習作は除きました)
以下、ランキング順に各曲の簡単な説明とおすすめCDのご紹介をしていきます。
第5番 変ロ長調
実は地味ではないか? というご意見もあるかもしれません。しかし、彼の宗教的な立場や求めていた響きなどを勘案すると、その理想的な音楽はこの曲ではないかと思ってしまうのです。パイプオルガンを基調にした、重厚な和音と対位法を駆使した響きです。
曲は、静かな低音のピチカートによる序奏で始まります。「ド・シ・ラ・ソ・#フ・ソ・ラ・シ・・・(原音はもちろん変ロ長調です)」というあまりにも真っ正直な音階を基にした旋律。この上に、繋留音を基調にした弦が被さっていきます。これを荘重と呼ばずして何をか荘重と呼ばんや、ですね。第一楽章のテーマの調の揺れ具合もまたなんと微妙なことか。ここには、主調の確保などという伝統的な手法などは微塵も感じられません。感情に身をゆだねる裸のブルックナーが居るだけです。その変幻自在な展開には我々は目を見張るだけしかありません。ピチカートで現れる荘厳な第二主題には頭を垂れるしかないではありませんか。
第二楽章の第二主題の居住まいを正した誠実さも感動しますが、恐らくベートーベンの第九番に敬意を表したと思われる終楽章の前楽章を回想する部分、そしてその後に毅然として現れるオクターブの跳躍をきっかけとしたフガート主題。ここにブルックナーの愚直なまでの音楽の献身を感じざるを得ないでありましょう。
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第9番 ニ短調
彼の最後の交響曲は、たった3楽章のものでありました。しかしこの完結性は、シューベルトの「未完成」にも通じるものでありましょう。もちろん”第9番”というベートーベン以来の呪縛にしっかり囚われたものであることも事実。第1楽章の序奏は、いかにも数ある断片から一つの大きな建造物を組み立てたベートーベンの究極のソナタ形式へのオマージュでありましょう。この第1主題の壮大さと緊張感といったら・・・聴いている側もびっしょり汗をかくような緊張感です。
そして軽妙で自在な第二楽章の後に現れる、宗教的な憂いに満ちた終楽章。この後には死しか彼には残されていなかったでしょう。美しくも儚げな印象深い人類の究極的な目標を指し示すような曲調です。
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第7番 ホ長調
作曲家も職業である以上、知名度をあげるということも一つの目標であるはずです。しかもなかなか作曲家としての自分に自信の持てないブルックナーにとっては、誰もが称賛するような曲を世に出すことは何にも勝る夢であったことでしょう。
その夢を叶えたのがこの曲であります。彼の曲には珍しいほどの明晰さと明るさ、そして万人受け間違いなしと彼が信じる人間臭い俗臭さも持ち合わせているのです。それを嫌う人もいらっしゃるでしょう。でもそれでも私は敢えて彼の勇気を讚えたい。彼の最も苦手なフィールドでの挑戦には違いなかったのだから。
この曲の秀逸は第3楽章のスケルツォでありましょう。後に紹介する第6番のそれにも匹敵する大胆で人懐こいその楽想は永遠に語り継がれるであろうほど新鮮で生気に満ちています。第4楽章が、彼の交響曲の中では短めなのは、聴衆への彼の配慮なのかもしれません。
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第8番 ハ短調
この曲は、玄人好みだともいわれます。ちょっとばかり地味な楽想と、ハ短調に特有な深刻さと。第7番でちょっと聴衆に迎合したリバウンドか、さらにブルックナーらしさを進めたものになっています。
ここでは、彼の第9番にもみられないような大胆な楽想をほとぼらせています。それが一番現れるのが終楽章。弦楽器で刻むリズムの上に、金管楽器が大股な和声的な楽想を重ねていきます。それを締めくくるトランペットの輝かしさはなんという嬉しさでしょう。主調への拘りなど微塵もない豪放な和音展開は、とにかく驚嘆せざるを得ません。
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第6番 イ長調
第5番と第7番に挟まれた、いわば「谷間」的な位置。それだけに気ままな自由な楽想をつれづれなるままに記譜していったようです。
出だしから、彼の特有な弦のトレモロによる「ブルックナー開始」からちょっと外れた、付点リズムを含むヴァイオリン高音の刻みに誘導される低音の第1主題に始まっているという掟破りがなされます。実は高音の刻みは、主調たるイ長調の第3音たる嬰ハ。低音の主題はその第3音をわざと避けるような主音と属音を基調にしたもの。第3音は、その調が長調か短調かを示す音として、もっとも重要とされる音なのです。それをわざと高音の微弱な音で抑制して、低音の朴訥たる動きに委ねてしまうとは。これほど従来の和声法に背を向けた主題もそれまでなかったことでありましょう。そして例によって調性に縛られない展開が始まります。そして現れるのがハ長調から始まって突然ロ長調に移る第二主題なのです。ここら辺りの気ままで傍若無人な調性の彷徨は、気弱なブルックナーに隠された内なる叫びだったのかもしれません。
そして彼が作った最も美しいといわれるスケルツォ。私も時々口ずさみます。
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以上です。私がブルックナーに魅かれるのは、常に自分の曲について完全さを求め続けた真摯さかもしれません。真の美しさを求めながらも、人間的な誠実さゆえに高みに達しえない人の哀しみ。それが伝わってくるからです。究極をいえば、魅力はそこにあるのかもしれません。
第4番「ロマンティック」がないことに疑問がある方もいらっしゃるでしょう。でもそれがこのランキングのいいところ。どうぞ御容赦いただきますよう。