こちらでは、モーツァルトの交響曲のランキングについて述べます。全41曲の交響曲がありますが、ベスト7を選んでます。
8歳で初めての交響曲を書いた天才児、とはいいながら、本当の名曲を書いたのはやはり晩年になってからです。ただ筆を走らせるのと、魂を振り絞って金にならないと知りつつも書かずにはいられなかったものとでは出来が違うのは当たり前。彼は彼なりに天才という世間がつくった殻を破るのに生涯のほとんどを費やしてしまったのだと私は思っています。
モーツァルトの交響曲ランキング
以下、ランキング順に各曲の簡単な説明とおすすめCDのご紹介をしていきます。
第41番 ハ長調 「ジュピター」
文句なし。断トツの一位です。モーツァルトが書いた最後の交響曲だから、という単純な理由ではありません。彼が既に自分の寿命を予感していたかどうかは別として、彼が人生の中で学んだ全てものを吸収しそれを昇華させ、まさに全能の神「ジュピター」の化身として結実させたものなのです。
ハ長調という最も基本的な調を選び、第一楽章は彼が若いころに愛したイタリア歌劇の序曲のような第一テーマで始まります。それがベートーベンを思わせるような和音の強打で一段落すると、優しく揺れるような第二テーマが奏でられます。それが或る程度伸びると、突然半音的な経過句の強奏で目を覚まさせられます。そして民謡的なコデッタで提示部を終了するのです。これだけでも変化に富んで収拾がつかなくなるような気がしますが、この絶妙なバランスはどうでしょうか。これだけダイナミックなソナタ形式の提示部はベートーベンでさえ7番以降にしか書けなかったと言ってもいいでしょう。展開部がいきなりト長調から変ホ長調への三度の転調を行っているのも新鮮です。そして民謡風のモチーフでの展開は和音的にも緊張していて文句なしです。
さて、きりがありませんから、フィナーレにうつりましょう。この最初のテーマは、モーツァルトが第1番から愛用していたモチーフ、「ド・レ・ファ・ミ」から成り立っています。テーマの確保が一段落すると、さりげなく同じ音列でフガートが始まります。そう、この楽章は(その当時としては最先端の)ソナタ形式と(バッハ以来の古風な)フーガを融合したとてつもないものなのです。この構成のせいでしょうか、この楽章の提示部とコーダが他の部分に比べて長めになっています。
私の好きなのは、コーダで一旦ヘ長調の属七和音で停止した後で、弦が優しく降下していき、それからホルンが高らかに先の主題でフガートを始めるところです。ここは第二主題も加えた二重フーガの部分で技巧的にも充実しているところです。ここまで極めてしまったモーツァルトは、もはや寿命であったのも仕方がないでしょう。最後は充実しきったようにハ長調の和音に終始していきます。
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第35番 ニ長調 「ハフナー」
いきなりのニ音の強打から2オクターブの跳躍をする華々しい開始をするこの交響曲は、もともとハフナー家という貴族のためにつくったセレナードを元にしているといいます。しかしながらこのダイナミックな主題はおよそ室内楽的には不似合いであり、いよいよモーツァルトがシンフォニーという魅力的な大舞台に躍り出た感があります。実際第1楽章は主題というよりもリズム的なモチーフがぐいぐいと聴く側を引っ張っていきます。展開部の沈んだ思い響きも、再現部のテーマの華々しさを強調するためのお膳立てに過ぎません。
第2楽章は歌うような部分と律動的な鼓動が交代していく魅力的な音楽です。指揮者によってかなり色合いが異なる不思議な曲になっています。
壮麗なメヌエットに続くのは、快速のフィナーレです。2分の2拍子でプレストで流れるようなロンド形式の曲は、きっと演奏する側も楽しいんだろうな、と思えるようなリズミカルな仕掛けが沢山あります。
シンフォニアと呼ばれていた頃の古風で合奏協奏曲の延長のような響きから、ベルリオーズにつながっていくようなオーケストラの音楽への一つのきっかけをこの曲はつくったといっても言い過ぎではないでしょう。
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第29番 イ長調
何故この曲が3位なのか。わかる人にはわかると思います。なぜなら、モーツァルトが一足飛びに成長を遂げた一曲であるからです。実は後に述べる25番も同じ位置づけではあるのですが、26,27番はまたもとの位置に戻ってしまっていたのでその分また跳躍したということで充実の一曲なのです。第1楽章が高音弦と低音弦の対位法の美しい響きから緩やかに始まった後で、カノン風な強奏で確保されるあたりは心憎いばかりの構成力です。ソナタ形式としては珍しく第3主題までもっているのも、かなり先端的です。展開部がちょっと律義すぎるきらいはあるものの、それを補って余りある豊かな楽想です。第2楽章の耽美的な気高さ、第3楽章の付点の軽やかなリズムは言うに及ばず。
そしてフィナーレの怒濤のような激しいテーマは、それとうまく対比をなす牧歌的な第2テーマとともにあっという間に終止へとなだれ込みます。まさに青春の記念碑的な一曲です。
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第36番 ハ長調 「リンツ」
この曲は4日足らずで作曲されたと伝えられています。実際に手を動かしたのは3日だったのでしょうが、きっとモーツァルトの頭の中では楽想が十分熟成されていたのでありましょう、随所に奥深い内容がちりばめられています。第1楽章の荘重ながら主部への気分を盛り上げている序奏部、それを受けて颯爽と登場するいなせな第1テーマ。私のお気に入りのリズミカルなコデッタ主題までよどみがありません。展開部が短めなのはちょっと難点ですが、これがちょっと短時間で作った片鱗が見えるところでしょうか。それでも必要かつ十分です。
なんといっても深いのは第2楽章でしょう。展開部の迷いながら歩を進めるようなモチーフは彼の天才的なひらめきの一端をみせていると思います。
短めながらよく出来ているのはメヌエットです。各楽器の対比が明確でリズムもがっちりしています。管楽器が優美に戯れるトリオも見事。
フィナーレは「ハフナー」のそれとよく似た印象です。流暢なテーマに全奏がリズミカルに答えるのはユーモラスです。第2主題がフガートで構成されているのは感服します。
しかしつくづく、こんな曲を4日で書くとは。。。やはりすごい作曲家です。
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第40番 ト短調
モーツァルトは生涯に短調の交響曲は2曲しか作りませんでした。それもいずれもト短調です。彼にはピアノ協奏曲もニ短調とハ短調の素晴らしいものがありますが、こうしてみると短調には特別な思いを込めてつくっていたような印象があります。
当時の作曲家といえば貴族のおかかえ楽士でありますから、短調の深刻な哀しげな曲調よりも楽天的な長調が喜ばれたに違いありません。それでも作曲がどうしても書きたいという思いが募ったときに、珠玉のような短調の曲が生まれたのでありましょう。
この曲の秀逸は、第3楽章の対位法の緊張した響きをもつメヌエットと、悪魔的とも評された半音階的な楽想に満ちたフィナーレでありましょう。特にフィナーレの展開部の入りは、十二音音楽の走り、とまで言われています。
またモーツァルトの短調楽章の特徴として、ソナタ形式の第二テーマが提示部では並行調の長調で奏でられるのに、再現部では主調の短調で現れてくる、という点が挙げられます。再現部で初めてそのテーマの美しさを認識させられるのです。
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第25番 ト短調
もうだいぶ前になりますが、「アマデウス」という映画で、出だしでサリエリが自殺を図った後のシーンでこの曲の第1楽章が効果的に使われていました。シンコペーションを前面に出したおどろおどろしいテーマにピッタリの映像であったと記憶しています。
この曲は29番とともに「奇跡」と呼ばれるほど、他の曲から際立った出来の曲です。
ただこの順位でわかります通り、私としては29番の方に魅力を多く感じています。この25番にはちょっと青臭い激情というものが表れすぎているのかもしれません。
いずれにしても誰もが青春時代に感じるような熱いほとばしりが出ている第1楽章と第4楽章は精神を揺さぶります。第2楽章は静かで一種冬枯れの景色のような不気味な美しさに包まれています。一言で言えば、純情な曲です。
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第1番 変ホ長調
数あるモーツァルトの曲をけちらしてもこの第1番をもってきたのは、未だにこの曲が8歳で作曲されたのかどうか疑問に思っているのです。確かに子供っぽいような諧謔的な要素は多いけれど、この澄み切った天国で天使が戯れているような音楽は、やはり出来過ぎのような気がするのです。
私の好きなのは第1楽章の第2テーマです。長いヘ音のあとで音階を滑り落ちてからシンコペーションから付点リズムに移るこの屈託のない自然な楽想は一体なんと表現すればいいのでしょうか。
そして第2楽章の中間部に表れる、例の「ド・レ・ファ・ミ」のモーツァルト動機。これがホルンで優しく響くのも、やがて「ジュピター」のフィナーレで同じ楽器で強奏されることをさりげなく預言しているようで神がかり的なものを感じさせます。 やっぱり大作曲家、ということなのですね。
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今回は以上です。この他にも、第31番「パリ」、第33番変ロ長調なども魅力的なのですが、やはりこの7曲は断トツでしょう。第39番がないのは単なる好みの差ということでご勘弁願いましょう。